「この作業、本当に必要なのかな」と思いながら、今日も表計算ソフトに数字を打ち込んでいる——経理担当者と話すと、こういう声をよく聞きます。経理業務の多くはすでにAIが代われる状態にあります。問題は技術ではなく、「何を手放していいか」の判断基準がないことです。このコラムでは、LITERAS AIが業務観察を通じて見えてきた「経理担当者が今日から手放していい業務」を15個、具体的に提示します。
1. 経理は「辞めにくい仕事」が多すぎる
「この作業、本当に必要なのかな」と思いながら、今日も表計算ソフトに数字を打ち込んでいる。
経理担当者と話すと、こういう声をよく聞きます。月末の請求書チェック、毎月同じフォーマットで作るレポート、通帳の入出金を一行ずつ照合する作業。「ミスが怖いから」「ずっとこうやってきたから」「誰かが確認しないといけないから」——そうやって、疑いにくい理由が積み重なり、手放せない業務がどんどん増えていきます。
経理は、正確性が命の仕事です。だからこそ、一度やり方が固まると見直しにくい。変えたときのリスクを考えると、「現状維持」の方が安全に見えます。
しかし現実には、経理業務の多くはすでにAIが代われる状態になっています。問題は技術ではなく、「何を手放していいか」の判断基準がないことです。
このコラムでは、LITERAS AIが業務観察を通じて見えてきた「経理担当者が今日から手放していい業務」を15個、具体的に提示します。手放した後に残るのは、数字を読んで判断する仕事と、社内外の人間と対話する仕事です。それが、経理担当者の本来の仕事です。
2. 「手放す業務リスト」とは何か
「手放す業務リスト」は、LITERAS AIが業務観察の現場で使う概念です。
AI導入を検討する多くの企業が、最初に考えるのは「何を導入するか」です。しかし私たちが業務の現場に入って最初にやることは逆で、「何を手放せるか」を特定することです。
理由があります。AI導入の効果を決めるのは、ツールの性能よりも「どの業務を対象にするか」の選択です。手放せない業務に高機能なツールを当てても、費用対効果は出ません。逆に、適切な業務を正しく手放す判断ができれば、比較的シンプルなツールでも大きな時間削減につながります。
このリストは「今すぐ全部やめろ」という意味ではありません。自社の業務と照らし合わせて、「これは当てはまるかもしれない」と感じた項目から、業務観察(実態の確認)を始めるための入口として使ってください。同じ業務名でも、会社の規模・業種・使っているシステムによって「まだ人が必要」なケースがあります。リストに印をつけることが、最初の一歩です。
3. 経理担当者が今日から手放していい業務15個
手作業の入力・コピー・転記が毎月繰り返されている領域。OCR・API連携・自動仕訳の組み合わせで、まとめて削減できる。
紙・PDFの請求書を手入力で会計ソフトに転記する
請求書の金額・取引先・日付・勘定科目の読み取りは、OCRとAI仕訳の組み合わせで自動化できます。freee・マネーフォワードは標準機能として対応しており、定型フォーマットの請求書であれば正解率90%以上の実績があります。「手入力の方が正確」という感覚は、慣れの問題です。
★☆☆(今週から着手できるレベル)
仕訳データを別のExcelシートや別システムへコピーする
「会計ソフトから数字を出して、Excelに貼って、そこから別のフォームに入れる」という二重・三重の転記作業は、システム間のAPI連携またはCSVエクスポートの自動化で不要にできます。転記のたびにミスのリスクが生まれる構造自体を、断ち切る発想が先です。
★★☆(連携先システムの確認が必要)
通帳・銀行明細のデータを手動で仕訳に紐づける
銀行明細と仕訳の照合は、銀行APIとの連携で自動化できます。主要な銀行(三菱UFJ・三井住友・みずほ・楽天・PayPayなど)はfreeeやマネーフォワードとのAPI連携に対応しており、明細の自動取込と仕訳候補の自動生成が可能です。担当者が行うのは「候補を確認・承認する」だけになります。
★☆☆(設定一回で継続的に効く)
経費申請のレシートを目で見て金額・科目を確認・入力する
レシートの撮影・金額読み取り・科目自動分類は、経費精算ツールの標準機能になっています。「申請者がスマホで撮影して送信するだけ」という状態にできれば、経理担当者が行う入力作業はゼロになります。承認の判断だけを人が担う形が現実的です。
★☆☆(ツール選定と社内周知が主な作業)
給与計算ソフトへの勤怠データの手動入力
勤怠管理システムと給与計算ソフトの間で行われている手動のコピー作業は、API連携またはCSVの自動転送で廃止できます。KING OF TIME・マネーフォワード勤怠・ジョブカンなど主要な勤怠システムは、給与計算ソフトとの連携機能を持っています。この転記はミスが起きやすく、かつミスが給与計算に直結するため、優先度が高い手放し案件です。
★★☆(使用システムの組み合わせによって難易度が変わる)
「念のため」「ミス防止のため」と続けてきた目視確認。例外フラグ方式・自動消込・3点照合で、確認の総量を圧縮する。
月次の仕訳チェックのうち、定型パターンの確認作業
「先月と同じ取引先・同じ金額・同じ勘定科目」という定型パターンの仕訳確認は、ルールベースの自動チェックで担えます。異常値(金額が大きく外れる、初めての取引先など)だけを人が確認する「例外フラグ方式」に切り替えることで、確認の工数を大幅に削減できます。
★★☆(ルール設計に初期工数が必要)
入金確認のための通帳データの目視照合
売掛金の入金確認は、銀行明細の自動取込と売掛管理システムの照合を組み合わせることで、自動マッチングが可能です。取引金額が一致すれば自動消込、不一致は差異通知という形にできます。「毎日通帳を見る」という習慣は、通知を受け取るだけの行動に変えられます。
★★☆(売掛管理システムとの連携設定が必要)
請求書と発注書・納品書の突合確認(3点照合)
請求書・発注書・納品書の3点照合は、データさえデジタル化されていればAIによる自動突合が可能です。金額・数量・品番が一致しているかの確認は、ルールが明確なため自動化しやすい業務の一つです。紙が混在している場合は、まず受領書類のデジタル化から着手します。
★★★(紙書類が残っている場合はデジタル化が先決)
「念のため」で毎月出力しているが誰も参照していない帳票の確認
これは業務のコスト問題であり、AIの問題ではありません。毎月作成・確認・ファイリングしているのに、実際に参照される機会がほとんどない帳票があるはずです。「前任者から引き継いだから」「何かのときに使うかもしれないから」という理由で続いている作業は、一度棚卸しをするだけで廃止できます。業務観察を通じて最も多く見つかるのが、この種の「慣習的な確認作業」です。
★☆☆(決断と棚卸しだけで廃止できる)
毎月発生する「文章を書く・整える」タイプの作業。生成AIと既存ツールの自動配信機能で、下書きと送信の手間を引き取れる。
督促メールの手動作成・送信
入金期日が過ぎた請求の督促メールは、「支払期日超過の検知→定型文生成→送信」という一連の流れをすべて自動化できます。取引先ごとの文面調整が必要なケースは人が確認しますが、初回督促の大半は定型文で十分です。「送り忘れ」「送るタイミングを迷う」というムダもなくなります。
★☆☆(多くの請求管理ツールが標準機能として持っている)
月次レポート・資料のフォーマット整形と転記
会計ソフトから数字を出力し、Excelに貼り直し、グラフを手で調整して、PowerPointに並べ直す——この一連の作業は、BIツールとの連携で不要にできます。数字が変わるたびにレポートが自動更新される状態を一度作れば、毎月の整形作業はなくなります。
★★☆(初期設定と運用への慣れが必要)
定型的な社内向け経費規程・手続き案内の更新と配信
「経費精算の期限は何日まで?」「この領収書は精算できますか?」という社内問い合わせへの個別対応は、FAQ化とAIチャットボットの組み合わせで削減できます。規程が変わったときのアナウンス文の作成も、ChatGPTやClaude等の生成AIを使えば数分で下書きが出来上がります。担当者は確認・承認だけに時間を使えます。
★★☆(社内ツール環境による)
「数字を集めて整形する」作業を、BIと生成AIに渡す。経理が経営に対して担うべきは、整形ではなく「読み解きと提言」。
各部門からデータを収集して経営会議資料を手で作る
複数部門のデータを集めてExcelに集約し、グラフを作り、スライドに転記する作業は、データ収集の自動化とレポーティングツールの活用で大幅に削減できます。経理担当者の仕事は「数字を集めて整形すること」ではなく、「数字の意味を読んで経営に提言すること」のはずです。整形の手間をAIに渡し、分析と提言に時間を返してください。
★★☆(データソースの整備が先決)
月次締め後の数字をExcelに手で転記して確認する作業
会計ソフトに入力された月次データを、再度Excelに転記して確認するという二重管理は、会計ソフトの管理画面上で完結させることで不要にできます。「Excelの方が使い慣れている」という理由で続いているケースが多いですが、その慣れは転記ミスのリスクと引き換えになっています。
★☆☆(慣れの問題が主。ツール追加は不要)
年次・四半期の財務サマリー資料の初稿作成
決算書・試算表のデータをインプットに、財務サマリーの初稿文章を生成AIで作ることができます。「前期比○%増の売上高となりました。主な要因は——」という構造化された文章の下書きは、ChatGPTやClaudeで十分なレベルで出力できます。経理担当者が担うのは、数字の正確性の確認と、経営への文脈づけの部分です。
★☆☆(すぐ試せる。今日から始められる)
4. 手放した後に残るのは「判断」と「対話」
15個の業務を並べてみると、共通する構造が見えてきます。
手放せる業務には、3つの特徴があります。
①ルールが明確で、正解が1つに決まる。金額の転記、期日の確認、フォーマットの整形。こうした業務は、ルールを覚えた機械の方が速く正確に処理できます。
②繰り返し頻度が高く、量が多い。毎月必ず発生する、毎週発生する。頻度が高いほど、自動化の効果が大きくなります。
③判断の余地が少ない。「どうするか」を考える必要がなく、「決まった手順をこなす」だけの業務です。
逆に、AIに渡せない業務が残ります。
取引先の状況を読んで支払い条件を判断する。数字の異常値に気づいて経営に問題提起する。税理士・銀行・監査法人と、背景を共有しながら話し合う。現場部門から上がってきた経費申請の文脈を読み、会社の方針との整合性を判断する。
これらは「判断」と「対話」を伴う仕事です。定型的な転記や確認に時間を取られている間は、こうした仕事に集中できません。手放すことは、後退ではなく、本来の仕事へ戻ることです。
5. まず1個だけ手放してみる
15個を見て、「どれから始めればいいか」と迷った方は、以下の選び方を参考にしてください。
難易度★☆☆の中から、今もっとも時間がかかっているものを1つ選ぶ。
具体的には次の3つがお勧めです。
- 銀行明細の自動取込設定(A-3):会計ソフトと銀行のAPI連携は、設定一回で毎月の効果が続きます。初期工数は数時間、その後の毎月削減時間は数時間から数十時間になります。
- B-4の帳票棚卸し:ツールも費用も不要です。「この帳票、誰かが使っていますか?」と関係者に確認するだけで始められます。廃止できた帳票の数だけ、毎月の作業が消えます。
- D-3の財務サマリー初稿(ChatGPT活用):今日の午後に試せます。試算表の数字をChatGPTに貼り付け、「財務サマリーの文章を作ってください」と入力するだけです。出てきた文章の正確性を確認する工程を加えれば、実務で使えるレベルに近づきます。
「すべてを変える」必要はありません。1つ手放してみて、「意外とこれで回るな」という感覚をつかんでから、次に進んでください。業務に、AIを溶け込ませるのは、そういう積み上げで進みます。
6. 「自社版・手放す業務リスト」を一緒に整理しませんか
このコラムで紹介した15個は、LITERAS AIが業務観察を通じて見てきた共通パターンです。ただし、「自社でどれが当てはまるか」「どの順番で進めるべきか」は、会社ごとに異なります。
LITERAS AIでは、貴社のバックオフィス業務を聞きながら「手放せる業務・AIが向いている業務・今は変えない方がいい業務」の初期診断を30分・無料で行っています。
このコラムの中で「これかもしれない」と感じた業務があれば、ぜひその内容を持ってご相談ください。